「着床」という言葉が示すとおり、子宮は「受精卵のベッド」としての機能を担っています。 性成熟期では、妊娠(受精卵が着床)が成立しない限り毎月、卵巣から分泌される ホルモンの作用を受け子宮内膜の増殖・肥厚と剥脱・出血(=生理)を繰り返しています。 子宮ではこの毎月の反復作業のプロセスの中で、いろいろな病気が発症してきます。 つまり生涯の月経の回数が多い人ほど様々な子宮の病気の発症リスクが高まります。 子宮の代表的な病気
子宮の入り口の頸部に発生する癌で20〜40歳代に最も多くみられます。 頚癌は発癌性ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染から生じる癌です。 (危険因子) @HPV持続感染 A性行為の相手が多い B妊娠出産回数が多い C喫煙 早期では症状はありませんが、進行すると不正出血や性行為後の出血、 黄色いおりものなどがみられます。2009年にハイリスクHPVの持続感染を予防する ワクチンが登場したことで、子宮頸癌は癌の中で唯一予防できる癌になりました。 当院での予防接種の詳細については「子宮頸癌予防ワクチン」をご覧ください。
子宮体部の内側を覆う子宮内膜に発生する癌で、閉経後に多くみられます。 同じ子宮癌でも頚癌とは原因、危険因子、性質とも全く異なる癌です。 正常な生理があれば、周期的に内膜が排出されるので、癌は発生しにくいですが、 正常な排卵が起きないと内膜を増殖させるエストロゲンの分泌が長期間持続して 子宮内膜増殖症になります。この期間が長いほど癌の発症リスクが高くなります。 (危険因子) @閉経後 A妊娠出産が未経験 B閉経年齢が高い C肥満 症状としては悪臭のある血性のおりものや閉経後の不正出血です。長引くようなら 検査が必要です。頚癌と同様に細胞診で診断しますが、頚癌と違って採取できる 範囲が子宮内膜のごく一部なので正診率は下がります。経膣エコー検査が必須です。
子宮の筋層内に比較的よくみられる良性腫瘍で、生理がある年数に比例して 多く発生する傾向があります。閉経後には縮小することから、エストロゲンの分泌量に 大きく影響を受ける腫瘍です。自覚症状が少ないため多くの人は検診で見つかります。 経過観察中に徐々に大きくなったり数が増えてきたりすることがよくみられます。 それでもさほど症状はありませんが、発生する部位や大きさによっては、過多月経、 下腹部膨隆、腹痛、生理痛、頻尿などがみられます。 経血量が急に増えてきたり、生理期間が長く続く傾向が出てきたら要注意です。 特に経血がレバー状だったり、出血量が増えることで貧血を繰り返すことが問題となります。 重い随伴症状がある場合は手術やOC、偽閉経療法などで治療する場合もありますが、 通常は経過観察で貧血に注意しながら、自然に閉経するのを待つケースが多いです。
子宮内膜やその類似組織が本来の子宮腔以外の骨盤腔内で増殖する炎症性疾患です。 早いと10歳代後半から強い生理痛が現れ始め、生理のたびに増殖を繰り返すので、 生理の回数を重ねるごとに生理痛は重くなっていきますが、閉経期になると軽減します。 発症部位により随伴症状は異なります。卵巣では繰り返し起こる出血が溜まり続けるので 卵巣が大きく腫れてきます(チョコレート嚢腫)。この場合は手術が必要なこともあります。 また卵管が癒着で詰まってしまうと排卵ができなくなり不妊症の原因にもなります。 ダグラス窩(子宮と直腸の間隙)では、強い性交痛や排便痛を感じやすくなります。 薬物療法の中心はOC(低用量ピル)です。40歳以上ではジエノゲスト(黄体ホルモン)や LNG-IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)が、また閉経が近い場合には、偽閉経療法 (月1回の注射で生理を止める治療)などが、状況に応じて選択され、提案されます。
子宮内膜が子宮筋層内に入り込み増殖することで子宮全体が大きく腫れる疾患です。 子宮筋層の肥大化によって子宮筋腫と区別が困難な場合もあります。 子宮内膜症よりも更に強い生理痛が毎回あり、過多月経(経血量が多い)も伴います。 痛みは陣痛様の激しいものが多いので、生理期は日常生活に甚大な支障をきたします。 出血量もナプキンの交換が追いつかないほどに多いので、慢性的な貧血に陥ります。 薬物療法の中心はOC(低用量ピル)ですが、子宮内膜症と同様に、年齢や状況に応じて ジエノゲストやLNG-IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)、偽閉経療法を行います。
子宮の内側を覆っている子宮内膜が異常に厚くなってしまう疾患です。ベッドメイクに例えれば、 正常な内膜の肥厚が毎月シーツ1枚だとすれば、一度に5枚も10枚も敷いてしまう感じです。 そのため、経血量が増えレバー状になったり、生理の数日前から出血があったりしてきます。 この病気は子宮内膜細胞のエストロゲンに対する感度が高くなりすぎることが原因です。 通常は黄体ホルモン剤の内服で治療しますが、中には細胞異型を伴うタイプのものがあり、 子宮体癌への移行に対する注意が必要です。特に閉経後ではそのリスクが高率になるため、 手術(子宮全摘術)が原則的ですが、検査所見や年齢などを考慮して治療法が選択されます。 |